僕が生きた日

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浩孝(ひろたか)と則弘(のりひろ)が笑顔を見せて、挨拶がわりに手を上げた。 口を開こうとはしない。 不可思議な行動に幸太郎が首をひねって戸惑った表情を見せると、則弘が手招きをした。 幸太郎を輪の中に入れる。 どうやら、彼らが見ていたものは犬ではなかったみたいだ。 3人で作っていた輪の中には、今は4人になったが、長草が一本生えていた。 青々としていて、すっくと気持ち良さそうに石と石の間に根をはっている。 しかし、こんなもの珍しくもない。 そこらには沢山生えているのだから。 何が面白いのか理解できず、回答を求めるように目の前にいた圭太を見やった。 幸太郎と目が合った圭太は、そっと、とても繊細なものを触るように長草のてっぺん近くを指差した。 ざあっ、と流れるような風が河原に吹き込む。 4人の輪の間を通り抜けた風が、圭太の指の先を長草を細かく揺らした。 3人は、あ、という顔をしたが、幸太郎は揺れた瞬間に長草の裏側にちらと見えたものに目を奪われていた。 それは長草が揺れた後、必死に捕まっていたが耐えきれなくなったのか羽を広げて宙に飛び出した。 華やかさはなく、ただ隙の無いような優美な動きに目が離せなくて飛んでいく様を見つめていた。 開いたままの口からは、自然と声が漏れていた。 「ほたる………」 ここの川は、他の川に比べてさほど綺麗ではなかった。 ただ蛍の餌になるタニシは多く住みついていた。 日が沈めば、この時期なら飛び交う光がごまんと見れるだろう。 昼間に見る蛍とは、なかなか珍しかった。 夜はあんなにいるのに、日が昇っている間、まるで闇を舞っていた命は焦げ尽きてしまったように、蛍の姿、命も感じられない。 忽然と姿を消すのだ。  
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