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しかし、昼間の蛍は珍しくなかなか見れないからといって、見れたら素晴らしいものでもない。
黒々としてて、細くて、もろくて、変な触角もあって、あれじゃただの虫だ。
蛍たちが日の下に出て来ないのも分かるようだ。
人々が愛でるのは、闇の中で光を発する蛍だけだ。
だが、その時の僕は、確かに黒光りの不格好な虫に不意をつかれ、そして魅了されたのだった。
少しも光りもせず、ただ風にのって静かに飛んでいく様を見つめて固まっていた。
たぶん、その時の蛍に僕は未来を見たのだ。
荒れ果てて、何もなくなった壊れた地球で、一匹の蛍が無常に飛んでゆく光景が頭に映し出された。
ただそれが余りにも現実とかけ離れた世界で、幸太郎はすぐに忘れてしまった。
「あ~あ、行っちゃった」
圭太がぽつりと呟いた。
口を開けたままな事にやっと気付いて、幸太郎は乾いた唇をなめた。
「じゃあ、缶けりやろうぜ!!!」
リーダーシップのある則弘の元気な声が響く。
いつの間にか彼の手には、錆びたラムネの缶が握られていた。
いつもと違った一瞬の出会いから、徐々にいつもの空気に戻っていった。
太陽の熱さがさっきの神秘的な時間から僕らを引き戻しているようだった。
藤太は無言で頷く。
圭太は嬉しそうな顔ではしゃぎだす。
じゃんけんで負けた僕は、仕方なく缶を地面に置く。
則弘の足によって空を舞った缶は、さほど遠くない位置に落ちた。
缶を拾いに行く背中越しに、彼らが逃げる足音が遠ざかっていった。
今日も暑かあ………
缶を目の前に置いて、空を見上げた幸太郎は額の汗を拭った。
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