「貯金箱」

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二日後。 その日はたまたま祝日で、仕事がオフになった。 私はゆったりと昼の10時くらいに目を覚まし、子豚が夜のうちに生み出しただろう、床に転がるしわくちゃのお札を、再び子豚に食べさせた。 今、私の手元には、800万円もの大金ある。 これだけあれば、軽四から外車に乗り換えることも可能だったが、さすがにそこまで高い買い物には手を出さなかった。 一番高い買い物でも、昨日電気屋さんで買った、大型&高画質のプラズマテレビ(30万円)だ。 あとは、冷蔵庫の鶏肉が100g98円のものから、比内地鶏(100g398円)に変わったくらいだろうか。 そして私は、朝ごはんを作るためにキッチンに立った。 ・・・ 朝食を食べた後に皿を片付けて間もなく、玄関のチャイムが鳴った。 「はーい」 私が扉を少し開けて出ると、そこには白い髪に黒いスーツを纏った、眼鏡をかけた5,60歳くらいの紳士が、わずかに微笑んで立っていた。 人に敵愾心を抱かせない柔らかな表情に、私も自然と微笑で会釈した。 「こんにちは。私はこういう者ですが、少々お時間を頂いてよろしいでしょうか」 そういって渡された名刺には、「三葉(サンハ)」の名前と、某有名企業の社名が書いてあった。・・・こんな方が、私に何の用かしら? 私は不思議に思ったが、とりあえずその紳士の話を聞くことにした。 「ええ、どうぞ。お上がりください」 「すみません、それでは失礼します」 そうして、私は紳士をリビングに招き入れた。 ・・・ 「単刀直入ですが」 三葉という紳士は、私の目を見て、柔和な表情を崩さず、ゆっくりと言った。 「あなたのお持ちの貯金箱を、どうか譲って頂けないでしょうか」 その瞬間、彼の視線は床を徘徊する子豚を捉えた。 「もちろん、ただでとは言いません」 「はぁ・・・」 この男性は、何故私がこの子豚、もとい貯金箱を手にしたことを知っているのだろうか。 「あ、私はあの雑貨店の主人とは古くからの友人でね。たまたま小耳に挟んだのですよ」 「へえ・・・そうなんですか」 私が本当に驚いたのは、紳士が私が考えていたことを読んだのではないか、と思ったからだ。 「それでは、」 紳士はおもむろに脇に置いてある大きなスーツケースを机に置くと、懐から鍵を取りだし、ふたを開けた。
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