「貯金箱」

9/10
前へ
/19ページ
次へ
「わ!」 私は思わず、叫び声を上げた。 紳士の出したスーツケースには、刑事ドラマで見るような感じで、一万円札がぎっしりと詰まっていたのだ。 「一億円で、いかがでしょうか」 一億円。 目も眩むような金額だ。 うまい棒なら、1000万本も買える。 繋げたら、余裕でオゾン層を突破するだろう。 もちろん、そんなものには使わないが。 私は紳士に向かって微笑むと、 「わかりました」 と返事した。 「ありがとうございます」 紳士は深々と頭を下げると、スーツケースごと私の方に差し出した。 私が子豚を紳士に明け渡すべく捕まえたとき、子豚は私たちのやりとりを全く気にする様子もなく、ただブヒブヒと鼻を鳴らしていた。 ・・・ 「それでは、さようなら」 紳士は子豚を脇に抱えると、にこやかに手を振って歩き去った。 残されたのは、紳士との取引で得た一億円と、800万円。 これだけの大金があると、自然と口元がほころんできてしまうものだ。 「オーッホッホッホ!!」 私は一人不気味な高笑いをして、早速、不動産会社に電話をかけるべく、広告を探ったのだった。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加