「死神と男の話」

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ある男が、ひょんなことから死神から鎌を買った。 三万円、ちなみに一括現金払いで。 デカくてゴツい見た目に反して、割り箸のように軽いこの鎌は、振り下ろした相手の魂を吸いとるという。 「ご利用は計画的に」 と、決め台詞を残し、死神は三枚の万札をヒラヒラさせながら、カッカッカ、と高笑いを響かせて赤提灯の向こうへと去っていった。 鎌を手に入れて、意気揚々とした男。 しかし男は、なかなかの悪で、なんと、手に入れた鎌を金儲けに使おうと考えていたのです。 三万円を、三億円にしてやろう、と。 深夜。彼は、最寄りの銀行に忍び込んだ。分厚い扉や厳重な錠前は、どちらも死神の鎌であっさり切り捨てられた。 鎌の切れ味は、斬鉄剣もビックリなほどなのだ。 男は、金庫に入った三億円を見事せしめた。 まんまと三億円を手に入れた男はアパートに帰り、風呂を万札で一杯にして、勝利の湯につかりました。 風呂上がりのあと、盗んだ大量の万札で体を拭きましたが、まだまだ使いきれないくらい余っています。 そこで男は札束を枕にして眠りました。 翌朝、鎌の峰を使って部屋に散らばった大量の万札をかき集めたあと、そのうちの一枚をひっつかんで、近所のコンビニに行きました。 彼は、百円の肉まんを一つ買うのに、諭吉を一枚をドンと出しました。 店員は少し驚きました。 男は、鼻歌混じりの上機嫌でした。 しかし、一万円札を見る店員の眉間に皺がよりはじめ、いきなり大声で人を呼びつけたました。 男はあっという間に私服警備員に取り押さえられましたが、「なんでこうなるんだよ!無実だ!」と、わめきながら主張しました。 店員は、無言で男がさっき渡した万札を、男に見せました。 するとなんと、一万円札に描かれている福澤諭吉の肖像の顔が、死んでいるではありませんか。彼の目は、まるで死んだ魚みたいだったのでした。 男はその瞬間、気が付きました。あの鎌のせいだと・・・。 しかし、ことは既に後の祭り。 男はのちに銀行の防犯カメラの映像にも写っていることが判明し、しかるべき刑を受けましたとさ。
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