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「ラーメン屋にて」
一人の若くて粗末な身なりの男が、ラーメン屋に入った。
席に着くなり、男は「醤油ラーメン一つ」とふてぶてしく言い、タバコをふかしはじめた。
中年の店主の男性は「へいよ」とだけ言うと、調理に戻った。
実のところ、男は金を持っていなく、言い訳をして食い逃げをするつもりだったのだ。
・・・
ほどなくして、中年の店主の男性が、醤油ラーメンを男の前に差し出した。
「へいお待ち」
再び店主が奥へ戻った。
店主がいなくなったのを確認すると、男はラーメンを三分の一くらい掻き込んだ。
そして、自分の髪の毛を一本引き抜くと、ラーメンの上に浮かべた。
男は一瞬ほくそ笑むと、すぐに表情を戻し、店主を呼びつけた。
「おい、主人!」
「いかがしましたか?」
「ラーメンの中に髪の毛が入っていたのだが」
男は、ひどく怒って言うふりをした。
周りにいた客も何事かと思い、彼らをちらちらと見ていた。
「大変失礼しました」
店主は一通りの謝罪をした。
そして、言葉を続けた。
「しかし、それは有り得ないことです」
そういうと、店主の男性は、白い頭巾を外した。
男は「しまった」と思い、息を呑んだ。
そこには店主の男性の、毛が一本もなく、油がテカテカとして見事に輝くハゲ頭があったからだ。
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