「貯金箱」

4/10
前へ
/19ページ
次へ
翌朝、私が目覚ますと、やはり子豚は、あいかわらずリビングをうろついていた。 幸いなことに、今日は日曜日。 仕事もないため、朝食と身支度を済ませて、例の駅前の雑貨屋さんへ出かけることにした。 だが、私が玄関を出ようとすると、ズボンの裾が引っ張られるのを感じた。 足元を見ると、子豚が私のズボンの裾をくわえ、もの欲しそうな瞳をこちらに向けていた。 その目は、まるでよく磨かれた黒い石のように輝いていた。 仕方なく、私は財布から小銭を何枚か取り出し、屈んで子豚に与えてみた。 「がりがりがり」 子豚は、本当に硬貨を食べていた。それも、非常に美味しそうに。 意外と、可愛いかも。 やがて、総額1000円分にもなる硬貨を食べ尽すと、その場で子豚は眠りはじめた。 動かそうとしても、子豚はウンともスンとも言わないので、そのままにして私は出掛けることにした。 ・・・・・ 駅前に着いた。 しかし、ついに私はその雑貨屋さんを見つけることができなかった。 昨日まで雑貨屋さんのテナントがあった場所には、既に「貸店舗」と書かれたプレートが高々と掲げられ、中はもぬけの殻となっていた。 もちろん、あの愛想のいいおじいさんも居ない。 これは、一杯食わされた。 あの謎の豚の貯金箱は、まだお金を食べただけだ。富を運ぶどころか、合計1600円のマイナスである。 しかし、あの尋常でない現れ方やお金をがりがりと食べることから、まだ様子を見る余地がある。 うん、私はきっとセレブになって、駅前の「ハニースイーツ」のフルーツ・テンコモリ・パフェを食べまくるんだ。 私(OL/25歳未婚)は、前向きな気持ちをもって帰路についた。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加