「貯金箱」

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私が帰宅すると、子豚は私の帰る音に気が付いたのか、目を覚ましていた。 「よしよし」 とりあえず子豚の頭を撫でておく。 やはり元が貯金箱だったせいか陶質でひんやりと冷たかったが、それが心地よかった。 私は、コーヒーをいれようと、キッチンに向かった。 「ブヒィブヒィ」 私がインスタントコーヒーの粉をマグカップに入れようとした直後、突然子豚が鳴き、そわそわし始めた。 まさか、と思い駆け付けたが、手遅れだった。 子豚はピカピカのフローリングの上で、思いきり力んでいた。 「コルァァアア!」 私が豚を狩る狼の如く叫んだ瞬間、子豚はビクリと体を震わせ、こちらを向いた。 しかし、時既に遅し。 子豚の足元には、何かくすんだ色の物体が落ちていた。 私は子豚を持ち上げて退け、恐る恐るその物体を見た。 子豚の排泄物は、よく見るとお札だった。 広げると、それはクシャクシャになった一万円札だった。 つまり、行く前に与えた1000円の、ぴったり10倍の額面。 そこからは、非常に安易な方程式が導き出された。 私は、心の中でニンマリとほくそ笑んだ。 いや、実際は顔も相当ににやけているだろう。 私は嬉々として、今しがた子豚のお尻から出てきた一万円札を、そのまま子豚の口に含ませたのだった。
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