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ああ……、先輩……。
「ひっ!」
突然ぞくりと背筋を這った悪寒に、
ヤナギヒトシ
柳 仁志は体を震えあがらせた。
「なっ、なんだ、今の……」
幽霊でも見たように恐ろしげに辺りを見回すが、静かな中庭に人の気配はない。
──視線を感じたんだが、気のせいか。
そう思い直し、柳は止まった歩みを再び進めた。
……そして、そんな彼を見守る少女が一人。
「うー、かっこいい、かっこいい! いつもかっこいいけど、今日もやっぱり相変わらずかっこいい!!」
中庭の大きな木の下で、コッソリと柳を見つめていたのは彼女、
ユイノ
結野 みほ。
生粋の柳ファンである彼女は、言ってしまえば柳の追っかけ──悪く言うなら、ストーカーである。
入学式の新入生に対してのあいさつで、生徒会長として壇上に上がった彼は、それはそれは格好よかった。
神々しく見えた。
まるで、神様か天使だった。
それから私は、柳先輩に恋をしてるのです……。
うっとりと頬に手を当て、彼女は先ほどの柳の背中を思い出していた。
「柳先輩ってほんと何しててもかっこいいなぁ。歩いてても、走ってても、黙ってても、喋ってても……」
みほはもう一度、うっとりとしたため息をこぼした。
つい先日まで、彼女はこうして毎日のように柳を尾け回しては、ただ彼を見つめているだけであった。
3年の柳と1年のみほに、接点などありはしない。
「しかーし!」
今の彼女は違うのである。
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