夏空に現る者

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僕って、ほんと立ち回りが悪いみたいだ。さっきまでトリプルアイスでルンルン気分だったのに、今やピンチに陥っている。 「わかってんのかコラ、こんなに汚しやがってよ!!」 「当然クリーニング代くらい払ってくれるよなぁ?」 原因を辿れば、悪いのは間違いなく僕に絡んでいるこの4人組だろう。いきなり向こうから現れて、わざとらしくアイスを握る僕の右腕にぶつかってきた。これは俗に言う“カツアゲ”という行為に違いない。 閑静な道に耳障りな騒音……じゃなかった、不良たちの怒声が響き渡る。 僕はこの手の人種が最も苦手で、抵抗力もない。近づくのですら嫌なのに、そんな連中に目を付けられてしまった今日のような日には、もう恐怖から声を出すこともできなくなっていた。 「聞いてんのかよ!?舐めんなよこのガキがッ!」 不良たちの一人が、僕の目の前で握り拳を固めた。僕にとってのそれは威嚇なんてレベルじゃない、束になった蛇が餌である蛙を取り囲んで睨みつけるようなものだ。 明らかにクリーニング代と称して金を奪い取ることが目的の不良たちは四人で僕を取り囲んで、半ば拉致でも行うかのような強引さで人気のないこんな所まで連れてきたわけだ。 でもさっきのトリプルアイスに有り金を使い切ってしまった僕に、当然渡せる金の持ち合わせなんてない。 「あ、あの、僕、お金ない……」 恐怖に呑み込まれたまま、ようやく片言のようにそれだけ言う。諦めてどっか行って。ホント頼むから。 「ハァ?てめぇ、ざけんなよ!!」 「金ないっつえば逃げられるとでも思ってんのかコラ!?」 でも、どうやら逆効果だったらしい。わざとらしくボキボキと指を鳴らしながら迫ってくるあたり、怒りに燃えたこの不良たちは、どうやら金を奪う代わりに僕をボコボコにする事で気を紛らわせるつもりのようだ。 何ともベタな不良だが、そんなことに突っ込んでいる余裕なんて今は全くない。こうなれば、簡単には逃げられはしないだろう。 こうなれば一か八か、人気のない場所だが信じて助けを呼ぶしかないか……。 「た……たきゅきぇきぇっ!?」 ほんと立ち回りが悪い。いや、もはや悪いどころか最悪とも言うべきレベルだ。 こんな絶体絶命のピンチに、あろうことか僕は噛んでしまった。
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