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何かがいる。取り囲む風の向こうに、確かな気配を感じた。
「な、何者だてめーはっ!?」
突然の出来事に取り乱す不良たちが、焦る顔で唾を吐き散らしながらお決まりのセリフを叫ぶ。その対象は、どうやら突風の中心にいる誰かに向けられているみたいだ。
「もっかい言うぞ、拓哉に手ぇ出すなよ!」
激しい風が刺さるように目を乾かすので、まともに顔を向けることもできない。だから声の主がどんな人物なのかはよく見えないし分からないが、その声は吹き荒ぶ大風の轟音にかき消されることなく、辺り一面に染み渡るように響いている。
少し高めの声質を持つ、どうやら少年の声だ。
「もし拓哉に危害を加えるつもりなら―――」
と、唐突に風が止んだ。僕を含め、その場にいる全員が声のする方向を向く。
「―――オイラが成敗してやるぞっ!」
声の主は思ったよりも小柄で、それこそ僕と変わらないくらいの体躯の少年であった。緑色の、乱雑なまでに癖っ毛の強いボサボサ頭、無地の目立たない半袖・短パン姿。
その圧倒的な存在感の割には、髪色を除きどうも地味な風体である。少なくとも、僕の記憶の中には彼のような知り合いは思い当たらない。
不良たちも、決して強そうには見えない少年の姿を目にするなりうろたえた態度を裏返し、威圧的な態度で少年に迫る。
「何だぁ、このガキゃあ?」
「てめぇ、しゃしゃり出てくんじゃねーよ!」
「お前からやってやろうか?」
単純な意味での力関係でしか物事を図れないこの不良たちは、彼らの言う“力”を以て屈服させるべく迫っていく。
だがこの少年は、不良たちの威嚇を眼前に対しても、ただ不敵な笑いを浮かべているのだった。
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