ある日突然

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意外と早く出た。 私も簡潔に用件を伝えようとするが、やはり動揺していたのかしどろもどろになりそうになる。 「あ、えーと先生。いつもお世話になってます。詩織の母ですが」 「はい。おはようございます」 感情のない返事だ。 どうもこのお通夜男は苦手なタイプだよ。 慇懃無礼というのかなんちゅうか本中華、温度上げろ残暑だぞ残暑。 「あの。先生実は娘が。」 「詩織さんがどうしましたか。」 「友達にイジメられてるらしくて、学校に行きたくないと言うんです。」 「あっ、そうなんですか?」 初めて口調に抑揚がついた。 先生も慌てたらしい。 「お母さん、無理矢理学校に来させずに、少し落ち着くまで休ませて下さい。また僕の方からも連絡します。」 能弁になったお通夜男の対応に、少し安心して電話を切った。 振り向くと、電話はやめてと泣いていた娘はまだ泣いていた。 私は。 この時の自分の行動が正しかったか、それとも間違っていたかを未だに考える。 もしかしたら担任に報せなかったら、娘は少し休んですぐに学校に行ったかもしれない。 そう思うといてもたってもいられない気持ちになる。
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