この店

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小鳥は 風船の引っ掛かる位置まで飛び、垂れている紐(ひも)をくわえると詩音の元へ 舞い戻って来た。 「ご苦労様」 詩音は 役目を終えた小鳥にニッコリと微笑み、 風船を受け取った。 感謝の意をもらった小鳥は、 ピピィと一声上げると 元の折り紙の鶴へと戻ってしまった。 驚きから 目を見開く女の子に、 詩音は クスクスと笑いながら 風船を手渡した。 「はい、 どうぞ」 「あっ、 ありがとう……!」 女の子は 嬉しそうな表情を浮かべ、 風船を手に取った。 そして唐突に 自分の洋服のポケットに 手を突っ込み、 何かを引っ張り出した。 「風船のお礼なの」 そう言いながら 女の子は詩音に手の中の物を渡す。 詩音がキョトンとした表情をし 女の子に視線を向けると、 彼女は とても楽しそうに 顔を綻(ほころ)ばせていた。 「じゃあお兄ちゃん、 またねっ!」 そう言い残し、 風船をしっかりと握りながら 女の子は走り去ってしまった。 女の子を見送り、 詩音はもらった物に目を向けた。 「ハチミツレモン味の飴(アメ)か……」 口元に笑みをのせ、 詩音は店へと歩き出した。 .
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