この店

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「のぞき見なんて 趣味悪いと思わない?」 「のぞき見じゃないわよ。 正々堂々と見てたもん」 晴香の反論に 詩音は 『駄目だこりゃ』というように 額に手を当てる。 そんな詩音の反応を見た閑は 面倒臭そうな顔をして、 煙草(たばこ)に火をつけ 吸い始めた。 因みに閑は ライターもマッチも、 火をつける道具は 何一つ所持していない。 火をつけたのは 彼が扱う式神である。 式神とは、 陰陽道で使役するところの 『鬼神(きしん)』である。 しかし、 残念ながらこの店では 小間使いのような扱いを受けている。 非常に 哀れな光景だと言えよう。 呑気(のんき)に 煙草を吸う閑を、 詩音は眉をひそめて見遣る。 「煙草吸うのは 一人の時にしてよね。 副流煙のが 煙草の害って高いんだよ?」 「フィルターの問題が 云々(うんぬん)って話しだろ? んな事知ってるさ」 知ってるなら 止めて欲しい……。 詩音は 深々と息を吐き出した。 この店にいると 必然と ため息をつく回数が増える。 ため息をつくと 幸せが逃げるって言うけど、 そしたら僕の 幸せメーターはすっからかんだな……。 .
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