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季節は春。
暖かな日差しの下、
カタカタと
ぎこちない動きを見せる日本人形。
唐突(とうとつ)に動きを停止し、その場にパタリと倒れこむ。
それを眺めていた黒猫は、
人形を口にくわえると
とてとてと一軒(いっけん)の店に向かって歩み始めた。
三階建ての木造で
今にも壊れそうなボロボロの店。
看板には
「人形屋」という文字が綴(つづ)られている。
スライド式の扉の前には
一枚の人の形をした紙が落ちている。
黒猫は迷う事なくその扉の前に立つ。
すると人形(ひとがた)の紙は
まるで命を持つかのように動き出し、
扉をサッと開けた。
待ってましたとばかりに、
黒猫は扉をくぐり
中へと消えて行った。
その様子を見届け
役目を果(は)たした人形の紙は、扉を閉めた刹那(せつな)
燃えて灰になってしまった。
それはこの店の
よくある光景の一端(いったん)である。
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