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あたしは橋本久志が寝ている布団に手をかけ、身体を潜り込ませた。もちろん橋本久志に背を向けて。
入る時に身体に触れないように細心の注意を払った。それでも狭いシングルベッドに不自然な距離を開ければ布団からはみ出るし、かと言ってくっつくのはもっと不自然だ。
微妙な距離をあけているつもりだけど、たまに触れ合う部分と、触れ合うかもしれないという気配だけで十分いっぱいいっぱいだった。
「橋本くん?」
「うん?」
「別にしても良いよ?」
「何を?」
「茶化さないでよ。あたしじゃダメなの?」
「前田ってこういうことできるんだ」
「だって怖いんだもん。あんまり何も考えたくない。ねぇ、ダメ?」
急に後ろから抱きしめられ、「明日美」と耳元で囁かれた。
溶けてしまう。
こんな恐ろしい夜のことを忘れたいはずだった。それだけのはずだったのに。
でももう忘れたくない。
こんなにも幸せな夜のこと。
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