掴まれる

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「笠原んとこだろ?」 「何で知ってるの?」 「笠原に聞いた。今日の前田明日美の行動は全て把握してる」 「フルネームやめて」 「前田だろ?俺をフルネームで呼ぶのは」 歩いて5分、5階立てマンションの302号室が笠原真由の部屋。今日の5コマのテスト勉強をする約束だった。 インターホンを鳴らすと、あたしよりも橋本久志を歓迎してるらしく、いつもより笑顔の真由がドアを開けた。 「橋本くん経済学入門教えてくれるんだって。中間テスト一位の橋本くんがいればこっちのものだ」 真由が橋本久志を歓迎したのはそういう理由でか。いつも授業をちゃんと聞いていれば、中間であんな悲惨な点をとらなくてすんだのに。 真由には言ってなかったけど、あたしは二位だ。橋本久志と一点差で。 あたしはもうテスト勉強は済んでいて、今日は真由に教えるために来た。でも今は橋本久志が必死になって教えてるからあたしは真由の部屋にある漫画を読みながら二人を観察した。 教え方が上手いあたり馬鹿ではないのだと思うし、そもそも学年一位なのだから馬鹿とは違う。真由はさっきから首をかしげているけど、真由に理解してもらえないのは橋本久志が悪いわけじゃない。 「笠原って馬鹿?」 ついに橋本久志が疑いはじめた。真由は根っからの文系で、経済学みたいに少しでも数字が入ると拒否反応を起こすらしい。 「うん、馬鹿だよ」 「微分くらいはやってくれ」 「だから微分って何?」 「お前さ、経営学理論は中間一位じゃなかったっけ?」 「だって暗記じゃん」 「じゃあ暗記しろ。ここからここまでは数字変えればいいだけだから」 あたしも暗記でこんなふうに教えようと思ってた。橋本久志なかなかやるなぁってちょっと感心した。真由も楽しそうだし橋本久志連れて来て正解かも。
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