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「そうですか……。では、別れましょうか?」
僕のあまりにも早い別れの提案に、彼は酷く驚いた顔を見せた。
理由は簡単。
いつもの僕なら、“好きじゃない”という言葉に突っかかるだろうし、ましてや別れようなんて言うはずがないからだ。
今の僕の言動は彼にとって全て想定外のものだったと言えるだろう。
「え………ぁ……そう……だな……」
だが彼は、とても辛そうな顔をして、別れる事を認めた。
それもそのはず。
彼の先程の発言は、僕を驚かすための嘘だったのだから。
彼は本気で“好きじゃない”なんて言っていない、そんな事は言われた時からわかっている。
これは、自信過剰とかそういうものではない。確信的な事実だった。
そして彼は、こうなった以上、自分からそんなことを言っておいて、今更いやだなんて言えないということを思ったのだろう。
「なぜそんなに辛そうな顔をするんです?僕のことはもう好きではないのでしょう?だったらこれ以上付き合っている必要なんて無いじゃないですか」
だから僕は彼の思っている事とは裏腹の事だけを言い続ける。
そのうちにも、彼の表情はどんどんくもっていく。なんとも加虐心を煽る顔だ。
そして、そのちょっとした加虐心が僕の心を満たしていった。
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