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コンコンッ ガチャッ
「―――…失礼します」
「おや、先生。いかがなされましたか」
「校長先生、少し、お話が――――……」
―――――――――……
「……そうですか…。よく一年、頑張ってくれました。生徒達の卒業まであとわずかです。残りの時間を大切にしてあげてください」
「はい。校長先生には、本当に感謝しています。ありがとうございました。失礼します」
ガチャッ パタン…
「……寒いですね……。今日は特に冷え込むようだ……。」
校長室に、寂しげな声音が響いた。
受験シーズン真っ只中の一月。最近は毎日学校に残って先生と勉強している。志望校はS大。今の成績だと確実に入れるとは言えない超難関大学だ。今日も残って先生と勉強しようと待っていたのだが、なぜかいくら待ってもこない。教室に生徒は残っておらず、俺はかれこれ一時間一人で机に向かっていた。
「…………遅い。」
俺がしびれを切らして立ち上がると、ちょうど先生が教室に駆け込んで来た。
「~~~っ。ハァ――疲れた!ごめんね。遅くなって」
「一時間遅刻。かわいい生徒との約束破るなんて、ひどいよなぁ」
ちょっと意地悪をすると、先生はちょっと困った顔になったあと、またいつもの花の咲いたような笑顔で
「ごめんって。ジュース奢るよ!」
と言ったのだった。
この時俺は、自分が思っているよりもきっと、ずっと、――――先生が好きだったのだ。
「…………あ、あった。」
毎日の先生との特訓のおかげもあってか、俺は見事志望していた大学に合格した。
「……電話しなくてもいっか。明日どうせ会うんだし」
俺は大学の合格発表の次の日、先生とデート(?)する約束をしていた。
『ねぇ先生。俺絶対受かるから、合格発表の次の日会ってくれない?』
『ん?いいよ。よく頑張ったし、ご褒美あげる。大学は受かってると思うしね。一緒に買い物しよっか』
『うん。………約束だよ。また一時間も遅刻、しないでね』
『あはは!わかってるよー。じゃあ一時に駅前の噴水の前ね。』
『……わかった』
思い出しても恥ずかしい。結構ムリのあるお願いだろうと思っていたから、あっさりとOKをもらえてかなり浮かれた。あの日は、にやけないようにするのが精一杯だった。
静まり返った教室で約束をした。
大切な、大切な、想いを秘めて。
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