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次の日。俺は待ち合わせの10分前に到着した。先生の姿はまだ見えない。
よかった……待たせてない。
自分がこんなにマメな人間だったとは。
自分の意外な一面を垣間見て、また驚く。先生と出会ってからはなんだかいろんな発見をしている。ふと考えると、先生とは会ってからまだ一年と経ってない。もう随分と長い間一緒にいるような気がしていた。
と、俺が一年を思い返していると、噴水前の時計が一時を知らせた。それと同時に先生がこちらに走ってくるのが見えた。
「はあっ、はぁっ、は~……間に合った……はぁっ、遅刻、しなかった…っ!」
「ギリギリ、ね。……大丈夫?」
「……ん。ふぅ~…もう若くないから疲れちゃったよ!あはは!」
「………まぬけ」
「何おうっ」
こんな感じのいつもどおりの会話。合格も『おめでとう!!』と大げさすぎるくらいに喜ばれた。そして先生は本当にご褒美をくれるらしく、俺を小物屋(?)見たいなところへつれていった。おしゃれなブティックのようだった。
カララーン……
「いらっしゃいませ」
「あの、頼んでおいたものが出来上がってると思うんですけど……」
「ああ、オーダーメイドされていたお客さまですね。どうぞ、こちらへ」
先生は慣れた様子で進んでいく。俺は訳が分からずとりあえず先生についていった。
「こちらになります。代金はすでにいただいておりますので。ありがとうございました」
先生は愛おしそうに、今受け取った手のひら大くらいの箱を見つめた。そうして俺を、ブティックからそう遠くない桜並木まで連れていった。
「はい。これがご褒美ね。受験合格おめでとう!よく頑張りました。どうぞ」
早咲きの桜の下、先生はその綺麗な箱を俺に渡した。
「え…。こんな高そうなもの……本当にいいの?」
オーダーメイドと言っていたし、店に並んでいたものもそう安くはなさそうなモノばかりだった。
「いいの、いいの!私があげたいんだから受け取って。……大切にしてくれると嬉しいんだけど」
先生はちょっと照れ臭そうに、けれど、どこか寂しげに笑ってそう言った。
「……桜、綺麗だね。…ありがとう」
その表情の意味がなんとなく聞けなくて、先生の顔から目を逸らした。
「いいえ。受け取ってくれてありがとね。……桜…本当に綺麗ね。もう少しで満開だから、そしたらまた見に来ようか」
「うん」
小さな小さな約束。けれどとてもとても大切だった。
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