少年の観察

3/5
前へ
/30ページ
次へ
少年は誰もいないガランとしたライヴハウスに入り、隅からベースと椅子を引っ張り出した。 ん?なんでベース? 椅子に座り、カバンから楽譜を取り出して嬉しそうに弾き出す。 練習か?でも、まったく出来ないのに。 ぎこちなくゆっくりと弦を弾く。 音にならない弾き方なのに、少年は懸命で、嬉しそうで。 ふぅん。まったく出来ないのに好きなんだな。 磁石みたいに反発する出来ない自分と好きな自分。 好きだから練習する でも うまくならない。 後ろから眺めながら、心を覗く。 やっぱだめなのか?でも、ベースは好きだしみんなと舞台に立ちたい。 いつもな裏方で見てるんて、もう耐えらんねえ。 純粋に好きな気持ちと 焼けるようなむかむかした悔しさが ぐるぐると混じり合う。 好きだけど出来ない。 好きだけど弾けない。 ただ好きなのに 弾くコトは出来ない。 出来ない部分を努力で埋めようとすんのか。 人間らしいな。 諦めるトコも人間らしいがな。 何度も何度も練習する。 焦りが己の未熟さを怒る。 「くそっ!!」 吐くように叫ぶと、ベースを床に置いた。 人間のガキの癇癪みたいだな。 それじゃなくても、今の状態なら誰でも癇癪を起こすか。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加