恋するキモチ【長谷土】

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      初めて会ったのはお偉いさん家の屋敷の中     あの人は数人の連れを引き連れて廊下を歩いていた     あの人が前を通り掛かった時、近藤さんが深く頭を下げていたから、俺も倣って頭を下げた       そんなにエラい奴なのか     頭の中でそんな風に考えていると、あの人は俺の前で立ち止まり         なんだよ     眉を寄せながら頭を上げると、突然俺の頬をハンカチで拭ってきたんだ       何事かとア然としている俺に、あの人は       「汚れてるぜ。イイ面が台なしだな」     そう、言ってきた       その表情は、気のせいかもしれないが笑っていた気がする     あの人はハンカチを俺に押し付け       「お上に会うならそれ持ってきな」     そう言って、真っ黒い1枚のハンカチを俺に渡し、去って行った     あれ以来、あの人の事が妙に気になった     近藤さんの話しでは、あの人は入国管理局の人間なんだとか     だけどあれから何ヶ月──‥       あの人は上から切腹を命じられて夜逃げしたとか     生きてるのか、とかどこにいるんだろう、とか       気付けばそんな事ばかり考えてしまう          
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