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男には生来左目が無かった。
いや、今もずっと開くことすらない。
男は不思議だった。
何故、己には左眼が無いのか。
何故、周りの者には両の眼があるのか。
何故、眼が無いのは己だけなのか。
何故、家族には両の眼があるのか。
男はいつしか、己の左眼を探すようになっていた。
きっと、何処かにあるはずだと信じて。
元から無いのではない。
無くしてしまったのだと。
男はいつでも探していた。
家畜の牛に餌をやるとき。
幼なじみと話をするとき。
姉の作った飯を食べるとき。
硬い布団で眠るとき。
唯一考えていないのは、完全に眠りに堕ちたときのみか。
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