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「おいチキータ、誰が糞だって?」
「え?知らない。誰だろ」
「すっとぼけんな。正直に云ったらテメェ、ご褒美にその銃ケツに突っ込んでやるからよ」
「いらないね。アレックスこそ、そろそろ新品の尻の穴が欲しいんじゃない?何時でもぶち空けてあげるよ」
「けッ、余計なお世話だ」
再度ジョッキを呷ろうとして中身が無いことに気付いたアレックスは、空いたカウンター席を濡れ雑巾で掃除するメイドに声を張り上げかけて、ふとリオンがその少女をぼんやりと眺めているのを発見した。時折現れてはすぐにカウンターの奥へ消えるその少女はまだ幼く、リオンよりも更に若年に見えた。美しいというよりも可憐といった風貌で、磨けば玉になりそうだなどとアレックスは呑気に考察した。
「おい、リオン」
若干頬を弛緩させたアレックスに思考を遮られ、リオンはしかめ面を隠さずにはいられなかった。
「なにさ」
「お前、ああゆうのがいいの?」
「どれさ」
「アレさ」
アレ、と顎をしゃくって当事者である少女を指す。それに従って対象を見、次いでアレックスを見返したリオンは呆れ顔だった。
「……よく見てるね」
「専門分野だからな」
「どうしようもないくらい下らないけど、アレックスには天職かもね」
「まあな。で、どうなんだ?」
アレックスはずいと身を乗り出してみせた。酒臭い吐息が近くなったのと気色悪かったので、シオドアとリオンは揃って数センチ椅子を退いた。
「……まあ、アリかな」
「だろうな。年下にはそこまで興味はねェが、確かにアレは俺もアリだ」
云うとアレックスは、更にリオンと鼻が触れ合う距離まで接近した。リオンは露骨に嫌な顔をし、シオドアは「便所だ」と云って席を立った。
「──どうだ?元服祝いってことで、あの娘、テイクアウトしてやろうか?」
「はあ?」
「なに、これからどデカいことしでかすんだ。景気付けに一発」
「どうしようもない阿呆だね、アレックス。事を起こす前に騒ぎを起こす馬鹿はいないよ。今回の任務に限っては、失敗はできないし当然リタイアも利かない。今はあくまで待機、とにかく目立たないことだ」
「んなこと云ってもよ、王都全体が既にドンチャン騒ぎだぜ?皇族が結婚するっつーんで、みんな浮かれてやがる。事件が全く起こらないってーのは、かえってその方が不自然だぜ」
「だからと云って僕らにはそういうのは許されない。何故なら僕らは監視されているから」
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