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云われたアレックスの目がきゅっと細まった。周囲の空気が刹那にして冷却されたようにリオンには感じられた。真剣になった時のアレックスの透徹した思考力、行動力には先輩であるシオドアでさえも一目置いていた。普段がちゃらいだけに、ここ一番でのポテンシャルは一層光って見えるのだった。
「いるか。やっぱり」
「いるね。確認できるだけでも、中に二人、外にその倍」
アレックスは店内に視線を飛ばした。さっと一週してみたが、目ぼしい影は見当たらない。そこで、相手がローカルのギャングでないことを思い出す。“蒼き閃光”──自分達の讐敵。プライベートギルドを呼称しながら並外れた統制力を持ち、また個人のアビリティーも尋常では無く高い水準を誇る。自分達の活動を阻害するために在るとも思える彼らを、さっと見ただけで判別できる訳が無かった。
「ったく、窮屈だな」
毒突き、どっかとテーブルに脚を乗せたアレックスを、リオンは白い目で睨んだ。
「……んだよ、文句あっか」
「別に」
「リオン」
「なにさ」
「妹は元気か」
「……どうしたのさ、いきなり」
アレックスの胸中が読めずリオンは眉を顰(ヒソ)めた。アレックスは頭の裏で手を組んで虚空を眺めるだけで、表情を見ることはできなかった。
「何となく気になったんだよ。……で、どうなんだ」
「さあ。僕が村から離れたのは、もう大分前だからね」
「あれから帰ってないのか」
「うん。……そう気楽に帰郷できる立場でもないし」
「……そうか。じゃ、次。お前の妹と、あのカウンターの女の子。どっちが可愛い?」
「結局そこか」
「うるせえ、答えろよ」
リオンは答えずに頬杖を突いて少女が消えた後のカウンターを見詰めた。
故郷は、遥か南。湖に面した小さな村。棚引く風に抱かれ、穏やかな陽光の下で濃緑の葉を戦(ソヨ)がせるオリーブの樹木に囲まれて育った。標高の高い区域に家があったためそこ一帯では珍しく酪農を生業としていた。二つ下の妹と共に父を手伝い、月に二度生産した乳製品や肉類を引っ提げて麓の都市へ赴くのが楽しみだった。都市へ下りては土産を買い、家で旗を織る母に持ち帰り、喜ぶ顔を見るのが嬉しかった。
家を発ったのは、二年前。父が徴発され、北方で戦死した後だった。父を失ったリオンを故郷から連れ出したのは、他ならぬシオドア=ジアノプロスだった。
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