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「……良い人と出会えていればいいんだけど」
「あん?」
「何でもないよ」
「おい、それお前の妹に関する話だろ」
リオンは無駄なことには徹底的に聡いアレックスの耳に舌打ちした。対してアレックスは足を下ろして再度身を乗り出し、目は恰好の娯楽を得たとばかりにギラギラと輝き始めた。アレックスの好色ぶりを恨めしく思ったのは一度や二度ではない。シオドアの下で幾度となくコンビを組んできたが、三度の飯より色事を好むアレックスの好色ぶりに作戦を阻害された事例は、両手の指に収まらない。
「おいリオン。もし……、もしだぜ?その妹が、リオンお兄ちゃんラヴな妹だったらどうするよ?」
「ないから。そもそも妹は僕をそんな呼び方しないから」
「なあおい。なんでこの世で近親相姦がタブーになってるか知ってるか?」
「知らないし別に知らないままで良いよ」
「『それ』が一番起こりやすいことだから、らしいぜ」
「あっそう」
「なあなあリオン──」
エンジンが回り始めたアレックスを止める手立ては無い。否、無いことはないのかも知れないが、仮にあったとしても、少なくともとんでもない気力を要することは目に見えているので、アレックスが走り出したら見捨てるというのがリオンのグループの方針だった。
アレックスが機密事項を口走らない限りは、燃料が尽きてぶっ倒れるまで走らせておけばいい。どの道、これから仕掛けるのが団体戦である以上は、正規のギルドである“蒼き閃光”はこちらが動かない限り手を出すことはできない。作戦の準備が既に完了している今の状況では、シオドアからの命令が下されるまでは、束の間の安寧に寛いでおけばいい。──三日後からは、また忙しくなるのだから。
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