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「―ってことで、俺は怖がるサクの側に居てやったわけ!
なのにこいつ、朝起きた途端、俺のこと殴ったんだぞ!?グーで!しかもグーで!!!」
時は1限目前の休み時間。場所は教室。話題は今朝の家での出来事だ。
さりげなく核心をついてきた皐月と愛美に、咲陽は本当のことを告げた。
そしたら、明來はここぞとばかりに愚痴り始めたのだ。
「ごめんってば~」
本当に反省しているのだが、明來はなかなか許してくれない。
「記憶がないんだもん!びっくりしちゃうでしょ!?普通」
「いや、これは西条くんに一利あるわね」
「そうだね~。咲陽怖くなると記憶たまに無くしちゃうもんね~」
何も言い返せなかった。
たしかに記憶が飛んでしまう時がある。
去年の山登りでは、あまりの高さに意識を失い、倒れたようだ。
夏のカミナリの日には、授業中の風景から、いつの間にか、保健室の風景に変わっていたこともあった。
自分で気分が悪いと出ていったようなのだが、全く覚えていない。
こんな風に、時たま無意識に意識だけを手放し、行動するようなのだ。
「気をつけてはいるんだけど、自分じゃわからなくてね」
「サク、お前ホント変人なんだな」
「…。明來くんにだけは言われたくない気がする」
明來がむっとしたのが気配で分かった。
ちらりと見上げると、やはり納得のいかない顔で眉間にシワを寄せている。
冗談だよ。そう言ってごまかしたが、いまいちふに落ちないようだ。
「とりあえず、正体不明の西条くんを置いてあげるなんて、咲陽も相当のお人よしだよね」
「確かに~」
にやにやと楽しそうに見てくる皐月と愛美を、咲陽は半眼で見返す。
「俺もそう思う!いいやつだよ、文句いえねえよな!」
頭上から降る声は、嬉しそうに聞こえた。
照れ臭くなったわけでもないが、咲陽は頬杖をついて、そっぽを向く。
「人生はお互い様で出来てるのよ…」
「はい、ロングはじめるぞー」
せっかくいいことを言おうとした咲陽の声を遮るように、大きな声が耳をつく。
教室の前扉から担任が現れ、教壇に手をついた。
ほら、早く、と急かす声が幾度も発せられ、生徒達は渋々各々の席へと戻っていく。
「覚えているかー?明日は遠足だー」
担任の言葉に皆がざわめきだした。咲陽も含めて、皆忘れていたに違いない。
そんな生徒たちをよそに、担任は話しを続けた。
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