29歳の私

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寝付けない。 いつものシングルベッドとは違う、ダブルサイズのベッド。 ごろんと寝返りをうち、熟睡中の背中を見つめる。 ダブルベッドは嫌い。 だって、広すぎるから。 手を伸ばせば、その背中に触れる事は容易だろう。でも、私には手を伸ばす勇気がない。 しかし、愛の無い相手に触れたとしても、私は満たされる事は無いだろう。 ため息を一つ吐いてから、再び寝返りをうつ。 私の背中と、この人の背中の距離は…人一人分。心の距離は、無限に遠い。 愛が無い相手に対して… 何かを期待する私が愚かなのかしらね。 背中の気配に神経を集中させ、起きて私を抱き締めてと願っている。 どうした?何かあった?…と、気にして欲しい。 なんてね。 人に何も言わず、気持ちを察しろってのが無理な話なのよ。 そんな事はとうにわかっているのだけれど、29年間もこんな性格できたもの。 簡単には変えられないわ。 どうして溢れたのかわからない涙をそっと拭い、無理矢理に目を閉じる。 起きた時には、女王様な私に戻るのよ。 クールに軽く、しなやかな女。そう見えているなら、私はそれを演じなければならないから。 自分を失った29歳。 宮嶋春香(みやじまはるか)という名前だけが、生まれてから今まで変わらない唯一のもの。
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