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一人の幼い少女がいた。
その子の母親は、自分が産まれてすぐに、流行病で亡くなっていた。
自分が産まれてすぐに亡くなった所為か、少女は母親の事を余り覚えてはいなかった。
それでも、暖かい、優しい人だったのは覚えている。
少女には、父親がいた。
いつも自分を笑わせ、大事にしてくれた父親が。
父親の仕事が忙しくて、仕方なく少女が親戚の家に預けられてからも、父親はいつも決まった日に帰って来ては、少女に冒険談を聞かせていた。
そしてまた、仕事に出る。
その繰り返し。
いつも父親は、親戚の家がある近くの森を通って来る。
それを知ってからと言うもの、少女は父親が帰って来る日になると森まで迎えに行っていた。
父親には危ないから迎えはいらないと言われても、少女は迎えに来た。
大好きな父親に会いたいから。
早く会いたいから。
少女はいつも迎えに行く。
父親が帰って来る日の他に、少女には楽しみがあった。
それは、たまに届く父親からの手紙。
父親が行った先に何が在ったとか、こう言う事をした、見た、聞いた事を、手紙には書かれていた。
少女はその手紙をワクワクしながら何度も読み直し、自分が知らない外の世界に想像と夢を膨らませていた。
いつか自分も、大きくなったら父親と一緒に世界を見て周りたい。
そう、思い描いていた。
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