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「そっか、じゃ気をつけてね」
「ええ。俊哉は先に帰っていたらいいわよ」
つまり彼女は、自分の事は気にせずにさっさと行ってこい、と言外に言っていた。もう少し素直に言えばいいのだが、育った環境のせいか素直に自分の言葉を言おうとしなかった。
「それじゃあ、またね。暁美」
「ええ、また」
この時、部活の見学をせずに彼女と一緒にいればよかったと、俊哉は後悔することになった。それに気づくにはまだ時間が必要となる。
暁美は校舎裏にある曰く付きの桜へと向かっていた。恋愛とか部活とかに興味が無い代わりに、こういう曰く付きのものとか、昔話には興味を持っていた。
「これか・・・」
曰く付きの桜を自ら見ることが出来たので、暁美の表情には笑みが浮かんでいた。興味の持つ対象がもう少し違えば、彼女は普通の少女といえたのかもしれない。
そんなにも時間は経っていないはずなのに、暁美の周りには桜が舞っていた。いくら桜が大きくても、周りが見えなくなるまでの花びらがあるはずがない。異変に気づいた暁美だが、どうすることも出来ずに落ち着くのを待つしか出来なかった。
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