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アベルの返答に、ワグナは怒りを覚えた。今まで本気で相手にされなかったとは、彼にはかなりの屈辱だ。
「戯言だ!そのような力があるならなぜ最初から使わん!?」
「使いたくないんだよ。これ使うと皆に嫌われるからな」
「なら見せてみろ!その力ごと灰にしてくれる!」
「ああ、見せてやる……が、後悔するぞ」
「吠えていろ!…浄罪の焔…エルファイヤー!」
ワグナは怒りもろとも火球を放った。怒りのせいか先程の火球よりはるかに大きい。しかしアベルは何も動じていなかった。
先程まで使っていた黄色い雷の魔導書をしまい、新たに夜色の魔導書を取り出した。
そして目を閉じて左手を前に突き出し、静かに詠唱を始めた。
「千年の死よ、我らが敵を闇に包め……」
――な、なんだ?ヤツの魔力の波長がいきなり変わった?
「…忌まわしき闇…カレアウ!」
唱え終わった瞬間、アベルの膨大な魔力が爆発し、ワグナの火球が四散して掻き消された。
そしてワグナの足元に吸い込まれそうな程に深い影が現れ、そこから黒い霞が吹き出し、そのままワグナを包み込んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁ…!」
ワグナが闇に包まれながら、鼓膜を貫くような悲鳴を上げた。
よほど苦しいのか、目を開ききり喉を両手で押さえている。
「…闇よ…散れ!」
アベルが手印を横に払うと黒い霞が四散した。
ズタズタになって闇から解放されたワグナが、ドサッとその場に崩れ落ちた。
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