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大きな置き時計が午後三時を告げて、店奥の青い海の中が描かれた絵画の前に一人の女性が座った。
常連らしきおじさんが手を叩いて歓声を上げる。
白い長袖のタートルネックにシンプルなジーンズの細身の女性が、長い髪を耳にかけて会釈する。
長い足を邪魔そうに組んでギターを抱えて息を吸い込んだ。
フォークソングだろうか。爽やかな喫茶店に似つかわしい暗い曲。そして歌声は重苦しく。
低く重低音を響かせて、それでも凛としたその声は喫茶店に緩やかに響く。
がやがやとした店内がシンと静まり、誰もが歌声に耳を傾けた。
時折食器の当たるカチャカチャという音と、外の雑踏が聞こえる他は彼女のギターと歌声だけ。
歌が終わると同時にあたしはオレンジジュースを飲み干した。半透明のストローを通ってオレンジ色の液体がズズッと音を立ててあたしに飲み込まれていく。
後に残るのは微かな橙に光る氷と水滴のグラス。
「派手なフラれかたしてたね」
低くて張りのある声が頭上から響く。
グラスから頭上に顔を上げると、ギターを弾いていた彼女はいつの間にか目の前に。
近くで見ると思いの外、可愛い顔をしていた。
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