第1章 恋

3/13
268人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
次の日も その次の日も そのまた次の日も 暇さえあれば、私はひろゆきの自転車屋さんへ行っていた。 もちろん口実に自転車のパンクを遣ったりなんかしてない。 それでも ひろゆきは、私と話をしてくれる。 一緒に笑ってくれる、一緒に考えてあげる、一緒に空を見上げる。 たくさんの一緒の時間を過ごす―。 そんな中で私は、とても嬉しいことを発見した。 ひろゆきと同じ学校だということ。 今まで気づかなかった自分が馬鹿みたい。だって、隣のクラスだよ? 私は1組で、ひろゆきは2組… 高校生になったばかりだからかな… 私は どうも人の名前を覚えるのが苦手らしい。 クラスの人の名前だって、フルネームで言えって言われたら、入学から半年近く経った今でも、絶対に全員の名前を言えない。顔だって同じ。 だから私、歴史が苦手なのかも…。 『じゃあさ、学校で見かけたら声かけてよ?』 「おうっ 美鈴もな!!」 『うんっ あ、ていうかアドレス教えて?』 「アドレス?」 『そう!』 「俺 携帯とかパソコン持ってないんだよね…」 『え?そうなの!?』 「うん」 『買う予定とかもないの!?』 「うん、うち結構苦しいんだよね、家計がさ…」 『そっかあ…でもいいや!!』 「なんで?」 『だってメールなんかよりさ、会って話した方が楽しいし!!会いたくなったらここに来るし!!』 「だよな笑 だってここに来るの もう日課になってんじゃん!!」 『ね!! あ、私そろそろ帰るね!!明日、声かけてよっ』 「おう」 いつも思うけど、家まで送ってくれてもいいよなぁ… 結構すぐ振り返ったら、もう いなくなってるし… でも、嬉しかった。 私がひろゆきの家の自転車屋さんに行ってることが、私にとっても、ひろゆきにとっても、当たり前になっていっているから。 【恋】 ふと頭に浮かんだ言葉を私は振り払った。 恋がどんなものなのか経験のない私には、分からなかったから…
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!