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きっかけは、本当に些細な一言だった。
朝、リビング(ソファーがベッド)から起きて、少し着崩れしたパジャマを正す。
そして洗面台に向かって顔を洗い、睡魔完全撃退したところで起動する○月×日の安西直人(22才)。
不意に襲ってきたあくびに成す術なく、口を開け涙を一つ。
それでも習慣となった足取りで、冷えたフローリングを裸足で歩く直人はキッチンへと向かう。
「え~と、今日は……」
前よりも太った冷蔵庫を開け、今日『も』一日を愉快にする居候達を満たす献立を思案する。
「味噌汁ができるな、……卵は少ないから却下。ベーコンとハムでも炒め、ご飯はあったか?」
立派な主夫っぷりに全男子(主夫)が涙。
すっかり板についたその背中は、早くに妻に先立たれそれでも懸命に子ども達を育てる父親のよう。
だけど何よりもネックなのは、小さい時一緒にお風呂に入り、「将来はお父さんのお嫁さん」とまで言った『娘』が、「お父さん、クサッ!」と言う年頃ですから複雑です。
もちろん、靴下も一緒には洗いません。パンツは論外。
「って、何考えてるんだ俺は」
途中から自分のしていることに疑問を抱き、現実を逃避行していた直人は首を振り、余計な思考を除外する。
ちょうど頭が空っぽになった所で冷蔵庫からハムとベーコンを出し、味噌と煮干し、パックのカツオ節も準備する。
「んじゃ、始めますか」
そう呟いてニヒルに笑う直人。
ところで、味噌汁の具は?
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