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もし口にしていたら、奴に殺される。
そのことを確信したからだ。
『ソイツ』は俺を喰うことしか頭にないように、舌なめずりをする。
…動けない。
一歩でも動けば、奴は飛びかかってくるだろう。
“先に動いてはいけない”
脳から走るこの命令が、体の動きを封じていた。
―そうだ、奴の動きを見ろ。
奴の動きを理解し、それを考えながら逃げる。
それが、この場で投じるべき最善の一手だ。
…と、その思考は中断された。
「グォアアアア!!」
獣が叫ぶ。
その背後には、人間が立っていた。
白銀に閃く甲冑と、それ以上に輝く剣。
その姿は軽装であるものの、まさに『騎士』であった。
「ウルァアアア!!」
獣が振り返り様に唸る。
体勢を低くし、飛びかからんと構えた。
「…。」
騎士は、手にした細身の剣を構えた。
そしてジリジリと距離を詰めたかと思いきや、一気に間合いを縮めて斬りかかった。
「グォォオオオオ!!」
紙一重でかわした獣の脇腹が斬れていた。
しかし、そこから血は出ていない。
「フ…」
騎士は負傷し動きが鈍った獣の正面に回り込むと、高く掲げた剣を獣の額に突き刺した。
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