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冗談混じりに呟いてみたが、案外マジかもしれない。
さっきから何か息苦しいし、足の裏に感じる土の感触も、普段触れているそれとは違うような気がするからだ。
「…オイ!誰かいねぇのか!?いたら返事してくれ!!」
一瞬よぎった不安感を払うように、俺は叫んだ。
だが、その声は虚しく響くだけだった。
「…ちっ。」
返答がない叫びと足の裏に走る激痛、そして息苦しさのせいか、俺はついに座り込んでいた。
服の袖を引きちぎり、足から滴る血を止血する。
部屋着がもったいないが、仕方がない。
…と、その時であった。
「「ガラッ」」
誰もいないはずの岩壁、その上から音が響くと共に、俺は『何か』の気配を感じた。
「!?」
とっさに音のした方を睨みつけ、立ち上がる。
「ウゥゥゥゥ…」
…岩壁の上に、『ソイツ』はいた。
犬?狼?ハイエナ?
…いや、違う。
殺気を感じさせる程に血走った一対の瞳。
数多のものを喰らってきた事を物語る鋭い牙。
凄まじい素早さを誇るような強靭な四つの脚。
それを携えた一匹の獣が、岩壁の上から俺を睨んでいた。
「…な」
『なんだ、アイツは』。
俺はその言葉を発することさえ出来なかった。
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