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「あのな…頼みたいことがあるんだ」
小出は俺をまっすぐ見て、話し始めた。小出が頼み事をするなんて珍しいことだった。
「この人の彼氏役をしてほしい」
「は?」
この人とは小出と一緒に来た人だ。ずっと下を向いていた。
「…香奈(カナ)ちゃん、今ストーカーにあってて、かなり参ってる。俺は相手に顔を知られてるし、相手にやめろって話した手前、彼氏と名乗っても信じてもらえない」
「…すみません…」
小出の話の後に、小さく香奈は呟く。そして続ける。
「…警察は取り合ってくれないんです」
自宅には無言電話、携帯にはアドレスを変えても何度もくるメール、いつもどこかで見張られている感覚、一度は部屋の中にも入られたこともあったらしい。
「…前の彼氏なんです。警察は別れをしっかり話してないからじゃないかって」
―そんな人が身近にいるなんて
「無理な頼みとはわかってるんだ。でも俺じゃどうしようもできない…香奈ちゃんと一緒に住んでもらえないか?」
―かなり無理というものだ。いきなり連れてきた美人さんと同棲しろ、と?
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