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病室に戻ってみたが、何をどうしたらいいのか、わからなかった。
―俺は…俺は…
前にドラマで見た化学療法の様子が、頭をよぎる。
「あと…数年…」
ぽつりと呟く独り言。病室には誰もいない。
「治療したって…結局同じじゃないか!」
思わず大声を出す。するとちょうど看護師が、開いたドアのところから
「同じではありません。治療でがん細胞を殺すことは可能です。…ただ…」
そう言って看護師は、言うのをやめた。
「ただ、なんですか?!」
余裕なんて全くなく、看護師にむかって叫ぶ。
看護師が黙っていると、後ろから、さっきの先生が来て
「余命が…そのままか…伸びるか…です」
―そのまま変わらず数年か…伸びるか…
頭の中で繰り返される、先生の言葉。
―俺…まだ22才なのに…
「…マジかよ…」
言葉にならない思いが、ぐるぐると頭の中をめぐった。
―…葵衣…
はっきりしていたのは、葵衣の笑顔だけだった。
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