プロローグ

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真っ暗闇から微かにアルトの歌声が聞こえる。 ―――否。 ポゥと音を立てて蝋燭に火が点され、真っ暗闇が薄暗い部屋であることを無言で証明した。 しかし、歌は止まない。 ほう ほう ほたるこい あっちの みずは にがいぞ こっちの みずは あまいぞ ほう ほう ほたるこい――― 歌が終わっても、まだ空気の中を音が漂っているような錯覚。 それはまるで目に見えない紫煙のようにユラユラと揺れている。 「早く逢いたいなぁ、『ほたる』今、迎えに行くからね…。」 歌の残滓を掻き消す男の声。 クツクツと喉を鳴らす男の目には何も映ってはいない。 しかし男には見えているのだ。 『ほたる』が。 男の声に反応したかの様に、ほたるの様な蝋燭の火がユラリと震えた。
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