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明るくてしっかりした姉。
自由で天真爛漫な妹。
そして優柔不断で嘘のつけない男。
何気ない食卓もにぎやかで、毎日が騒がしかった。
帰れば必ず誰かがいた家庭。
今日、その家庭に帰ってきた。
安堵感と期待感で胸が膨らむ。
そうこう書類に目を通しているうちにいつの間にか、日が落ち始めていた。
(急がなくちゃ。)
ついに書類をしまった男は、部屋を片付け始めた。
片付けながら男はふと思った。
そういえば、気持ちとは裏腹に夜を働いて四年、ほとんど家族に会っていない。
活動する時間帯がまるっきり違うのもあったし、一般社会にある大型連休もないせいか、正月や盆にも帰れずにいた。
そして何より、いつでも会えるという距離が逆に遠ざけた。
連絡もあって年に一、二度。やはり、生活する時間帯が全く逆だったのですれ違いが多い。
便りのないのが元気の証拠と男は思っていたし、家族もそう思っていたに違いない。
会わない事自体は大した気にもとめずにいた。
それに明日から嫌でも毎日のように顔を合わせるのである。
片付けが終わる頃にはもう夜の九時を回っていた。
椅子もない、絨毯もない、ただのフローリングに腰をおろす。
いつもであればこの時間に起きている頃だ。
繋げたばかりのテレビをつける。
(そうか、今日は日曜日だ。)
ゴールデンタイムの番組を見て気づく。
夜の仕事は日にちをまたぐ仕事なので見事に曜日感覚も麻痺させてくれる。
(そうか、車もないし誰も様子を見に来ないのは日曜日だからみんなで出かけているせいだ。)
そういえば実家暮らしの頃、月の最後の日曜日は買い物の日と決まっていた。
理由は丁度父親の給料日後であるため。
そして翌月に必要なものをまとめて買うためである。
(まだ変わってないんだな。)
と懐かしみながら、帰ってきてもきっと買い物などで疲れているだろうと、男は家族に会うのは明日にする事に決めた。
(今日は一人でゆっくりしよう。)
冷蔵庫から引っ越し完了のご褒美として買ったビールと、つまみに買ったサンマの蒲焼きの缶詰めを取り出して、テレビのチャンネルを回した。
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