65人が本棚に入れています
本棚に追加
どのくらい時間が経っただろう。
男はすっかりうたた寝をしていた。
なれない昼間の運動と、フローリングに転がる六本の500mlのビールの空き缶が男を気持ちの良い世界へといざなってくれている。
テレビもつけっぱなしだが、もう胡散臭い外人の通販番組しかやっていない。
ふいに、家のチャイムが鳴った。
一回、二回。
三回目で男は目を覚ます。
四回目でふらつきながら立ち上がり、五回目で眠い目をこすり、軽い二日酔いに襲われながら玄関の方へ歩き出した。
「は~い、誰?」
寝起きでまだ声がしゃがれる。
ドアノブに手をかけるが返事がまだないので鍵はあけずにいた。
「…妹だけど…起きてる?」
その声は間違いなく妹の声だった。
鍵をあけてドアノブを回す。
戸を開くとそこには約四年ぶりに会う妹が立っていた。
上下ねずみ色のスウェットをだらしなく着てはいたが、しばらく会わないうちに大人っぽくなっていた。
金髪ギャルメイクは相変わらずで、腕に金属の輪っかがジャラジャラついていて、両耳にばかでかいピアスもつけているが、どことなく化粧に落ち着きが見られる。
そして何より元々痩せ型だが、より痩せたように見えた。
「少し痩せたね。」
最初に出た台詞だった。
「うん。お兄ちゃん久し振り。元気にしてた?」
ウェーブがかった髪の毛が風になびく。
肩より少し下ぐらいの長さだが、パーマをほどいたら腰までの長さになるのではないだろうか。
「彼女にふられたけどなんとかね。
…あがってく?」
「ううん、顔を見に来ただけだから。」
腕輪がシャン、と鳴った。
「そっか。そういや彼氏はできたのか?」
これだけ綺麗になった妹だ。男の一人や二人いてもおかしくはない。
兄として聞いておかねば。
「…今度ゆっくり話すよ。」
「そうか。気になるな、今度絶対教えろよ。」
ちょっと妹がはにかんだ。
「じゃあ、私帰るね。」
「本当にあがってかないのか?片付けたばかりだから綺麗だよ?」
「ううん、いいの。顔見に来ただけだから。じゃあね。」
「そうか、じゃあ明日上行くからな。」
そこまで言うと妹はすぐ脇の階段をのぼっていった。
のぞき込むと後ろ姿が少し悲しく見える。
最初のコメントを投稿しよう!