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風が吹いていた。
暖かくも冷たくもなく、丁度よく頬をなでる。
頬をなでてからすぐ空へ舞い、満点に輝く月へ吸い込まれていく。
そして全ての星をなぞった後地上へと戻り、心地よくまた男の頬をなでる。
まるで鳥の羽で撫でられたような感覚は、
突然の車のクラクションの音でかき消された。
夜の街すすきの。
男は歩いていた。
自宅から徒歩10分程にある、職場まで。
職場が近い方がいいと実家を飛び出て早四年。
途切れることなく行き交う人々、数珠のように繋がった車、安い宝石のようなネオン。
その全てに慣れていた。
慣れていると同時に、そろそろ飽きが出始めていた。
お酒を作り、飲み飲ませ喋るだけの毎日に。
もともと人の話を聞くのがあまり得意ではなく、優柔不断で、嘘がつけない性格は夜のすすきので働くには不向きだった。
それでも、四年も働けば仕事も覚え顔見知りも増えてそれなりの地位にはついている。
だが、それが限界だった。
限界と感じていた。
貯金も増え、女遊びも沢山したし人脈も増えた。
タイミングさえあればいつでも辞める気でいる。
職場に向かう足取りが重い。
理由は仕事を辞めたいだけではなく、他の何かが男の背中を憂鬱にさせている。
実は先日、同居している恋人に振られたばかりだった。
他に好きな人が出来たらしい。
たまたま名義を彼女の方にしていたばかりに、追い出される形になった。
今日の仕事が終われば荷物をまとめて出ていかなければならない。
今頃彼女が男の荷物をまとめている頃だろう。
こんな日に酒なんか飲んだ日には涙が出てしまいそうだ。
まだ好きだからというわけではない。
出ていこうにも他に行く当てがないのだ。
あまりの急さに次の家などすぐ探せるわけがない。
かと言って家が見つかるまで一緒に住ませてもらうのはプライドが許さなかった。
もう頼みの綱は一つ。
実家がアパートを経営しているもので、そこに転がり込むことである。
男は携帯を開き、父親に電話をかける。
仕事のことなど忘れていた。
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