帰郷。

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「もしもし。」 父親が電話にでた。     「あ、おとん?久し振り。実はさ…。」 男はこれまでのいきさつを話し、アパートに空きがあったら入れてほしいことを告げた。     「そういえば、一階が一部屋空いてたな…。」     実家のアパートは二階建てで、一階に二部屋、二階に一部屋の小さなものである。     二階は両親が、一階の一室には父方の祖母が住んでいる。     「明日から住みたいんだけどいいかな?」     これで男が住めば三世帯?住宅である。    「いいよ。敷金礼金はいらないけど、家賃はちゃんと払えよ。」         家賃はただにして欲しかったがそこは父親には逆らわない。     男の身長は180cmをゆうに超えるのだが、父親の身長は190cmを超える巨漢である。 その昔バレーボールで鍛えた体は齢50にしてなお健在だ。     要は逆らわないのではなく、怖くて逆らえないのだ。     少し潔癖である父は幼少の頃から厳しく、そして優しい父だった。     曲がった事が嫌いで、15の時万引きがバレた時は一晩中怒られた。    逆に二十歳になったお祝いにはオカマバーで一晩中飲み明かした。     メリハリのある人で、人間として、もちろん父親として尊敬している、自慢の父親だ。     「ちゃんと払うよ。安心して。」     「おう。じゃあ明日な。妹も喜ぶぞ。」   電話が切れた。         男には妹がいた。 20代に差し掛かったばかりで、見た目は金髪今時のギャルメイク、身長は160cm後半で痩せ型だがスタイル抜群。   兄が言うのもなんだが、容姿端麗である。     性格は芯が通ってて強がり、自分の殻に籠もるタイプである。     そういえば、実家を出るとき、酷く引き止めていたのは妹だった。 涙を流しながら最後まで反対していたのを覚えている。     確かに兄弟仲のいい方ではあるが、あの引き止め方は少々異常だった気がする。         なんにせよ、これで住む家は決まった。     ついでに職場に休みの電話をしてから夜のネオンにくりだした。         心の中は彼女にふられた事よりも家族に四年ぶりに会える喜びでいっぱいだった。
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