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実家へ向かう道中、携帯電話が鳴った。
電話を取ると受話器から甲高い声が耳をついた。
「なぁーにぃ!彼女に振られたんだってぇ!?」
家族間の情報は早いもので、すでに姉の耳にも入っていた。
「まだ傷心中。甲高い声で傷口開かないでくれない。」
機嫌がよくないので悪態をついた。
「お姉ちゃんが慰めてあげるから~、いつでも連絡頂戴!」
男には二つ上の姉もいた。
長女としてしっかり育った姉は明るく、器用で、頼りがいのあるまるで輝く太陽みたいな人だ。
きっと姉がしっかりしている分、妹が天真爛漫に育ったのだろう。
姉も身長が高く、目鼻立ちが整っているので、異性によくもてた。
特に男が連れてくる友達が次々に姉に恋をしていくもので困ったものであった。
社会人なので、スーツを着ると美人秘書を彷彿とさせる。
「今、引っ越し中で忙しいから電話切るね。」
ここで諸事情を話すと運転手さんから変な同情をかいかねないので電話を切ることにした。
「つれないのね~。まっ、暇になったら電話頂~戴。じゃね!」
携帯をポケットにしまった。
余談ではあるが、姉も妹も目鼻立ちが整っていて美形なのに対し、男はお世辞にも美形と言われる顔立ちに生まれなかったのだろうか。
血は確かに繋がっているのだが、目は一重、だんご鼻で唇は厚い。
なぜそんな男が夜の街で働けたのか、それは世の中顔じゃないことを証明していた。
喋ることで女性を気持ちよくさせる。
男は口が達者なのである。
気付けば見覚えのある懐かしい風景が眼下に飛び交っていた。
小学生の頃から慣れ親しんだ風景。
四年の月日は、そこはかとなく小さな町に変化をもたらしているものの、その原型は確実に脳裏に焼き付いている地元そのものであった。
「どこ曲がればいいですか。」
運転手の質問にまるで簡単な算数の答えを出すように右だ左だと答えた。
車の速度が落ちる。実家はもうすぐ目の前だった。
特にその周辺は何も変わっていなかった。バドミントンやバスケット、鬼ごっこを何千何万回と繰り返した小道。
木でできた垣根。マンション、近所の犬。
「ここが家です。」
目の前に我が家がたたずんでいた。
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