帰郷。

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外観が多少変わっている。     家を出るまでは薄いブルーだったはずなのに、今はダークブラウンと言えば良いのだろうか、暗い茶色をしていた。   家の前に自転車が二台。母と妹のだろうか。     左が祖母の部屋、右手が男の部屋。   双方の玄関の戸の間に階段があり二階へと繋がっている。     祖母の住む丁度上が男の家族の住居となっていた。   まだ見えないが男が新しく住む部屋の真上には二階の住人が使うベランダがついているはずである。         まだ二階に住んでた頃、兄弟で部屋が一緒だったので、煙草を覚えたての頃よく姉と妹と一緒にベランダで煙草を吸っていた。     もし部屋の中で吸うと、万が一親が入ってきたときに匂いでばれてしまう可能性があるからだ。     秘密を共有するときに時に人は仲良くなるもので、よく普段は話さないような恋人の話や学校の話をしたものだ。     実際妹と男と姉とでは年が二つずつしか離れていない。   思春期も大体同じ時期だった。 もちろん悪いことを覚える時期も。     高校三年の頃、姉が男の親友と付き合った時があった。その時は相談されるのがなんかくすぐったくて気持ち悪いので、ベランダで煙草を吸うのを極力控えてたのを覚えている。    失恋したときも、泣きながら煙草を吸っていた。   妹が慰めに来てくれて一緒に煙草を吸う。   駄目だったら変わりに姉が来て煙草を吸う。     そうしたらいつの間にか涙も晴れて、お腹が減って、ご飯を食べて、心の傷も癒えたものである。             引っ越し車を家の前の駐車場に止めてもらう。   車三台分の広い駐車場は、引っ越し用のトラックなど道路を通過する車に邪魔になることく駐車することができる。     男は車を降りて、これから住むことになる部屋の玄関まである二段の階段を、トントンと軽快に駆け上がった。     ドアノブを軽くひねる。 玄関の鍵は開いていた。   どうやら父親が開けていてくれたようだ。     そういえば家族で出迎えてくれてもいいはずなのに誰も下に降りてこない。   父が乗っている車が見当たらないので、もしかしたら出掛けているのかもしれない。     一瞬先に上に上がってみようか躊躇したが、ドアノブをひねり先に荷物を片付ける事に決めた。     時刻はまだ朝の10時。   1日が始まったばかりだった。
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