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彼女は桜並木の中を滑る様に駆けていく。
その彼女の後ろ姿を追う俺。
普通なら彼女より早い俺は追い付いてもう捕まえている筈なのに。
追い付けない―。
手を伸ばせば届きそうな二人の距離が
縮まらない―。
其れでも後ろから追って来ている俺に気遣う事無く振り向く事無く何処かへ向かって、走っている彼女。
…追い付けん。
彼女に会って互いに触れて互いに抱き合って彼女に聴かせたい事話したい事がまだあるのに。
なかなか追い付けん。
距離が縮まらない。
其れ所か少しずつ、離れていっちょる―…。
「待ってくれ!」
気付くと声に出とった本心。
「待ってって!」
叫ぶ様に言うが彼女は振り向く所か止まってはくれない。
そしてまた、桜並木が騒ぎ出す風に因って揺られて桜吹雪が舞う。
彼女の行く先には眩い白い光が溢れ出ていた。
俺はその眩い光に包まれ視界が遮られる。
「っ……――…」
呼んだ彼女の名前もその光に因って掻き消された。
その光の先に俺に微笑んだ彼女が
見えた様な気がした……―。
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