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時は幕末…
刀と黒船
幕府と新政府が闘う
新時代への混沌の時代
その時代をの一つの春を『誠』を背負う細身の男が、その整った顔を柔らかな笑みに崩しながら歩いている。
表向きは巡回…でも体のいい言い訳にして彼━沖田総司は当てもなくただ薄紅に染まる京の街をぶらついていた。
ここのところ長州人がおとなしく、あまり新撰組の出番がない。
平和なのは良いことだが常に己の剣を極めんとする総司には━不謹慎と知りつつ…━いささか退屈な日々でもあった。
「…ま、いいんですケドね」
と独りごちたのを知るのは街外れの小さいながらも立派な桜並木の華達だけで…
ふ、と
総司の目線がその先に人影を捕らえる。
その細く白い手を桜の木々に翳して。
頼りない背には今にも羽がはえそうなほど、実にふらふらと歩いている。
『…なんて…』
この時代には珍しく、結ってない黒髪が桜の風と舞い遊んでいる。
『なんて綺麗な女性(ヒト)だろう…』
その幻想的な美しい情景に、しばし見惚れていた総司だったが…
「どうかされたんですか?」
気付けば声をかけていた。
「…?」
彼女はゆっくりと総司を見た。
突然かけられた声にあまり驚いた風もない。
黙ったまま、じっと総司を見つめている。
その瞳の黒に思わず魅きこまれそうになる。
「あ…その…泣いてるから…」
そう…
始めて総司が見た彼女は…泣いていたのだ。
「…桜が…綺麗だから…」
少しの沈黙の後答える彼女は、見た目通りの細く透き通る声で。
「…おかしいですか…?」
そう総司に尋ねたのだった。
小首を傾げるその仕草に思わず頬を緩めながら、総司は『いいえ』と首をふった。
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