49人が本棚に入れています
本棚に追加
愛おしむように自分を抱き締めた総司に、未春は驚きも抵抗もしない。
ただ抱き締められるまま、その背に腕を回すこともなく…
男にしては細い…しかししっかりした肩で、未春は緩く瞳を閉じていた。
青々とした枝垂桜が、まるですべてから2人を隠しているかのようにざわめいた。
総司はわかっていた。
なんとなく…気付いていた。
たまに彼女が纏う彼女の趣味ではないであろう香の香りや、明らかに情事を思わせる白い肌に咲いた赤い印…
彼女は…既に他の…
「総司」
唐突に未春が目を開けた。
「…はい?」
「私も欲しい」
唐突すぎて…
「…は?」
間抜けな返事をしてしまった。
「これ」
未春は総司の腕の中で、その懐から刀を取った。
「懐刀…ですか」
頷く未春。
「何故貴女が…?」
尋ねる総司に困ったように笑う。
「わかってる…女が刀をもつなんて…どうかしてる…」
彼女が人から目を逸らす時は何か思うところがある時。
そしてそれがどうしても譲れない時。
「僕は貴女を護りたいと思ってるんですよ」
「…」
「…本当は貴女に刀なんて持たせたくない。いくらこんな時代でも…いやこんな時代だからこそ…かもしれませんね」
「総司…」
戸惑うように自分を呼ぶ未春。
総司は愛おしむ気持ちを言葉でなく唇にこめて、そっとその額に触れさせ…
そして諦めたように苦笑った。
「…僕のをそのままあげてもいいんですが…これは少し貴女には重すぎますね」
既ニ血ニ染マッタ刀ハ
貴女ニ触レサセタクナイ
「今度までに用意しておきます」
上手く…笑えただろうか
「総司…」
…笑えなかったらしい
「ごめん…」
彼女の細い指が、苦しげな笑みを作る頬をそっと撫でた。
「いいんです…僕は貴女にその刀を絶対に抜かせないように…護ればいいだけですから…」
その手をとって、口づけると、戸惑いながらも、未春は笑った。
「…ありがとう…」
枝垂桜が一際大きくざわめいた。
「絶対に…何があっても…貴女を護りますから…」
最初のコメントを投稿しよう!