緑萌ゆる頃に

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愛おしむように自分を抱き締めた総司に、未春は驚きも抵抗もしない。 ただ抱き締められるまま、その背に腕を回すこともなく… 男にしては細い…しかししっかりした肩で、未春は緩く瞳を閉じていた。 青々とした枝垂桜が、まるですべてから2人を隠しているかのようにざわめいた。 総司はわかっていた。 なんとなく…気付いていた。 たまに彼女が纏う彼女の趣味ではないであろう香の香りや、明らかに情事を思わせる白い肌に咲いた赤い印… 彼女は…既に他の… 「総司」 唐突に未春が目を開けた。 「…はい?」 「私も欲しい」 唐突すぎて… 「…は?」 間抜けな返事をしてしまった。 「これ」 未春は総司の腕の中で、その懐から刀を取った。 「懐刀…ですか」 頷く未春。 「何故貴女が…?」 尋ねる総司に困ったように笑う。 「わかってる…女が刀をもつなんて…どうかしてる…」 彼女が人から目を逸らす時は何か思うところがある時。 そしてそれがどうしても譲れない時。 「僕は貴女を護りたいと思ってるんですよ」 「…」 「…本当は貴女に刀なんて持たせたくない。いくらこんな時代でも…いやこんな時代だからこそ…かもしれませんね」 「総司…」 戸惑うように自分を呼ぶ未春。 総司は愛おしむ気持ちを言葉でなく唇にこめて、そっとその額に触れさせ… そして諦めたように苦笑った。 「…僕のをそのままあげてもいいんですが…これは少し貴女には重すぎますね」 既ニ血ニ染マッタ刀ハ 貴女ニ触レサセタクナイ 「今度までに用意しておきます」 上手く…笑えただろうか 「総司…」 …笑えなかったらしい 「ごめん…」 彼女の細い指が、苦しげな笑みを作る頬をそっと撫でた。 「いいんです…僕は貴女にその刀を絶対に抜かせないように…護ればいいだけですから…」 その手をとって、口づけると、戸惑いながらも、未春は笑った。 「…ありがとう…」 枝垂桜が一際大きくざわめいた。 「絶対に…何があっても…貴女を護りますから…」  
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