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京の街を秋の紅が染め上げる。
雨戸の隙間から満月の明かりに呼ばれ、未春はゆっくりと傍らの主人の腕を抜け出した。
この腕はいつも自分を傷付ける。
酒を飲んでは暴れ、その場にいる人間に…力の限りの暴力を振う。
その場の人間とは、主に妻である未春自身だが。
そしてその痛みで意識が朦朧としてきた頃、今度は狂ったように未春の身体…色を求める。
「……」
起き上がる度に広がる痛みにももう慣れた。
京に上ってからのこの3年で未春の「痛み」に対する感覚は、既に無に近いほどに麻痺している。
雨戸を開ける手にも縁側へ向かう足にも、相当な痣があるにも関わらず…。
少し冷たい風が熱を持った未春の身体をそっと撫でていく。
痛みにも…随分慣れた…
ただどうしても…
時々逢うアノヒトに優しく抱き締められる度に甘く疼くあの胸の痛みにだけは、いつまでたっても慣れる気がしない。
「…総司…」
愛しい名を呼べば、柔らかいあの笑みが閉じた瞼に淡く浮かぶ。
思い描く笑顔につられるように未春の口許も淡く綻んだ。
逢いたい…
未春の足は自然とあの丘へ…2人が初めて出逢った、桜並木の丘へ向かっていた。
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