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「――いかがでしたか? 私も思わず…ザザ…つしてしまいました。
では今週はこの辺でお別れです。来週の『あなたを誘う旅』をお楽しみに…」
薄暗い部屋にテレビの明かりだけが光っている。
時間は夜中の二時過ぎであろうか。
男は食い入るようにその画面を見ていた。
目をキラキラ輝かせ、うっすら微笑みさえ浮かべている。
男の名前は、村山一樹。都内の大学に通う学生だ。
――ブツッ
その番組が終わると、男はおもむろにテレビを消して
感慨深い表情で、宙を見た。
「いやぁ…今日もすばらしい景色だったなぁ…」
タバコに火をつけ番組を振り返った。
「しかし、いつも締めの言葉が途切れるんだよなぁ…」
男は深夜に放映されるこの番組が大のお気に入りのようだ。
リアルタイムでの放送を見ながら、毎回ビデオにも録画している。
男はクローゼットを開けた。
中には、『あなたを誘う旅1~6』『あなたを誘う旅7~13』という
背表紙のビデオテープが数本並んでいる。
シリーズは現在40まで続いているようだ。
余程お気に入りなのだろう。
「しかし、このナレーターは誰なんだろう…声に聞き覚えがあるんだよな…」
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