始まり

2/6
111人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
 「――いかがでしたか? 私も思わず…ザザ…つしてしまいました。 では今週はこの辺でお別れです。来週の『あなたを誘う旅』をお楽しみに…」 薄暗い部屋にテレビの明かりだけが光っている。 時間は夜中の二時過ぎであろうか。 男は食い入るようにその画面を見ていた。 目をキラキラ輝かせ、うっすら微笑みさえ浮かべている。 男の名前は、村山一樹。都内の大学に通う学生だ。 ――ブツッ その番組が終わると、男はおもむろにテレビを消して 感慨深い表情で、宙を見た。 「いやぁ…今日もすばらしい景色だったなぁ…」 タバコに火をつけ番組を振り返った。 「しかし、いつも締めの言葉が途切れるんだよなぁ…」  男は深夜に放映されるこの番組が大のお気に入りのようだ。 リアルタイムでの放送を見ながら、毎回ビデオにも録画している。 男はクローゼットを開けた。 中には、『あなたを誘う旅1~6』『あなたを誘う旅7~13』という 背表紙のビデオテープが数本並んでいる。 シリーズは現在40まで続いているようだ。 余程お気に入りなのだろう。 「しかし、このナレーターは誰なんだろう…声に聞き覚えがあるんだよな…」
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!